活用事例

慶應義塾

慶應義塾では、学内情報インフラのクラウド化を積極的に推進。メールやオンラインストレージ、ビデオ会議システムなど様々なサービスを提供中です。その狙いと効果、並びに学認クラウド 導入支援サービスの活用状況について、慶應義塾 インフォメーションテクノロジーセンター本部 事務長 金子康樹氏にお話を伺いました。(インタビュー実施:2017年9月26日)

インフォメーションテクノロジーセンター本部の概要と担当業務について教えて頂けますか。

慶應義塾 インフォメーションテクノロジーセンター本部
金子事務長

金子氏:基本的には企業の情シス部門などと同じで、学内の事務系システムやネットワーク環境などの企画・構築・運用を手がけています。かつては、大型計算機センターと図書館を統合した「メディアセンター」として活動していましたが、ネットワーク管理の負荷が次第に重くなってきたため、1999年に新たな専門組織としてインフォメーションテクノロジーセンター(ITC)を立ち上げました。ちなみに、ITC本部では全学的な情報化戦略の企画・立案などを行っており、各キャンパスの環境については、それぞれのキャンパスのITCが担当しています。また、ITCでは附属一貫校のインフラなども見ているため、我々の所属は「慶應義塾大学」ではなく「慶應義塾」となっています。

2014年に「Google G Suite for Education」(当時の名称は「Google Apps for Education」)を導入されましたが、これはどのような経緯からだったのでしょうか。

金子氏:そもそものきっかけとして、自前で保有する資産をできるだけ減らしたいと考えていたことがあります。以前は大量の物理サーバーが稼働しており、その運用管理に大変な工数を費やしていました。そこで、仮想環境への統合を進めると同時に、コピー機やプリンタなども複合機をサービスとして利用する形にシフトしていたのです。こうした取り組みによって、コスト削減や運用効率化が図れたため、メールなどの学内サービスについてもクラウド化に踏み切りました。

サービス選定にあたってはどのような点を重視されましたか。

金子氏:教職員間のコラボレーション活性化などにも役立てたかったので、メール以外の機能も充実しているサービスを選びたかった。そうなると、必然的にGoogle、Microsoft、Yahoo!の3社に絞られますが、今回は多言語対応であることやメーリングリスト機能の柔軟さなどを評価してG Suiteを採用しました。ただ、一つ問題になったのが、何らかの係争が発生した場合の裁判所で、Googleの場合はこれが米国になってしまう。この点については議論もありましたが、最終的には本当に起きるかどうかも分からないトラブルよりも、目前の課題解決を優先すべきと結論付けました。

オンラインストレージの「box」やビデオ会議システムの「Cisco WebEx」なども活用されていますね。

PCエリア

金子氏:boxはビューワーの種類が豊富な上に、動画データのストリーミング再生なども可能です。G Suiteのストレージ機能ではカバーできないe-Learning的な用途にも使えるということから、あえて導入しています。また、WebExについては、海外在住の留学希望者との面接などが、特別なクライアントソフト不要で行える点を評価しました。もちろん教職員間や学生同士での会議にも利用されています。

クラウド導入を進める上で苦労された点などはありましたか。

金子氏:本学では、システム面でそれほど想定外の事態は多くなかったのですが、大学によっては、認証基盤や学内システムとの連携など固有の要件でつまずくケースがあるかも知れませんね。事業者側の思い込みで作業されてしまうと、後で問題が生じることも考えられますから、意思疎通はしっかり図るようにした方が良いと思います。また、我々の場合は、「情報をトラッキングされてしまうのでは」「アドレスがgmailになってしまうのでは」といった、ユーザー側の誤解に基づく懸念を払拭するのが大変でした(苦笑)。これはもう足で稼ぐしかないので、学内をくまなく廻って説明に務めました。

従量課金制度や支払手段がネックになるケースもあるようですが。

金子氏:Amazon Web ServicesなどのIaaS活用はこれからですが、確かに年度の途中であまり大きく変動すると予算的に困るケースも考えられます。ただ、年間を通してのピークの推移はある程度予測できますから、そこの見通しを大きく外さなければ対応できるのではないでしょうか。AWSの支払いについても、リセラーを通せば請求書で可能ですしね。また、コストについては、単純なクラウド移行ではそれほど削減につながらないという意見もありますが、運用管理負荷の軽減や本来業務への注力など、直接金額として現れない部分にも目を向けると、また評価も変わってくると思います。

情報セキュリティについてはどうでしょう。

金子氏:クラウドに情報を出して大丈夫かという声もありましたが、むしろクラウドの方が安全というのが我々の考えです。本学では学生・教職員合わせて約5万人のユーザーを抱えていますが、こうした大規模環境のセキュリティ対策を自前でやるのは相当大変です。もちろん、だからといって何もしなくて良いとは思っていませんので、現在CSIRTやSOCを学内に設置する取り組みを進めているところです。

学認クラウド 導入支援サービスが役に立った場面などはありましたか。

金子氏:ええ、もちろんありますよ。たとえば本学では、各部門でのクラウド利用を積極的に認める方向で取り組みを進めています。ただ、「このサービスはどうだろうか」と相談に来てもらっても、全ての事業者のサービス内容を把握しているわけではないため、的確なアドバイスが行えないケースも想定されます。そこで、便利に使わせてもらっているのが「チェックリスト」です。これを事業者側に渡して回答してもらえば、本学での利用に適しているかどうかが容易に判断できます。自分たちでも同様のものを作る必要性があると感じていただけに、大変助かっていますね。また、現在ユーザー向けの「クラウドサービス利用ガイドライン」を策定中なのですが、ここでもクラウド上に配置する情報の格付けにチェックリストを役立てたいと考えています。たとえば「チェックリストのこの項目とこの項目を満たせれば、情報格付けのレベルいくつに該当」といった具合ですね。さらに、クラウド導入支援サービスで開催されるセミナーのプログラムも充実していますので、情報収集の手段として積極的に参加したいと考えています。

今後の期待や要望についても伺えますか。

金子氏:今後は単に民間サービスを利用するだけでなく、アカデミックなクラウド環境を利用した情報共有なども進んでくることでしょう。そうした環境に大学規模の大小を問わず参加できることが望まれますから、アカデミック分野におけるクラウド利活用の裾野を広げる旗振り役になってもらえればありがたい。現在では研究活動も一つの大学や研究室に閉じるのではなく、複数の大学や企業が協同で行う時代になっています。そうした世界でのガイドライン作りなども進めていって欲しいですね。もちろん本学でも、さらなるクラウド活用に向けて、様々なテーマに取り組みたいと考えています。

ありがとうございました。