活用事例

東京工科大学

学校法人片柳学園 東京工科大学では、2014年よりキャンパスIT基盤の全面クラウド化を実施。クラウド事業者のサービスと学内クラウドを組み合わせることで、インフラ運用管理の効率化や情報教育の高度化に役立てています。その概要について、東京工科大学 メディアセンター長 コンピュータサイエンス学部教授 田胡 和哉氏と、同 片柳研究所クラウドサービスセンター 講師 安藤 公彦氏にお話を伺いました。(インタビュー実施:2018年8月3日)

東京工科大学では「生活の質の向上と技術の発展に貢献する人材を育成する」を基本理念として掲げておられますが、学内の情報化についてはどのような姿勢で臨まれていますか。

東京工科大学 メディアセンター長
コンピュータサイエンス学部教授 田胡 和哉氏

田胡氏:本学では、実学主義を大きな柱としていますので、時代の変化に応じて最新の技術をいち早く取り入れるようにしています。比較的新しい大学ということもあり、大学運営自体も新たな学部を短期間で立ち上げるなど、かなりダイナミックな面があります。当然、学内のITインフラにも、これに即応できるだけのスピードや柔軟さが求められますね。

2014年には、キャンパスシステムのフルクラウド化に取り組まれました。これは、どのような背景からだったのでしょう。

田胡氏:これまで本学では、各種の業務システムをオンプレミスで構築・運用してきました。しかしこの方法だと、定期的に発生するインフラ更新や運用管理の負荷が非常に重い。IT部門がハードウェアのお守りに追われるような状況では、大学としてやりたいことをスピーディに進めることもできません。これでは大きな機会損失にもつながりかねないので、クラウドに舵を切ろうと決断したのです。

クラウド化にあたっての狙いや、留意されたポイントなどはありますか。

田胡氏:まず一つは組織についての考え方ですね。以前はインフラの維持・管理がIT部門の主な役割でした。しかし、こうした仕事の多くはクラウド化によって不要になりますので、IT活用の指針作りや企画・戦略の立案などに注力できる組織に変わっていかなくてはなりません。また、もう一つ着目したのがEUC(注1)です。オンプレミス型の環境だと、ちょっとした変更を加えるにもすぐにSI案件になってしまい、相当な時間とコストが掛かってしまいます。そこで、PaaSなどのサービスを活用することで、自分たちで新たなユーザーニーズへの対応を行えるようにしたいと考えました。これらを実現するために、従来はサービス提供側であるネットワーク部門に所属していた職員を、ユーザー側の業務部門に異動してもらうといった取り組みも行っています。

(注1)End User Computing:企業などで情報システムを利用して現場で業務を行う従業員や部門(エンドユーザ、ユーザ部門)が、自らシステムやソフトウェアの開発・構築や運用・管理に携わること。

現在のクラウド環境について教えて頂けますか。

田胡氏:大きく2つのクラウドを運用しています。まず一つ目は各種の学内業務システムを稼働させるためのクラウドで、ここには「Microsoft Azure」を採用しています。そもそも、紙帳票の電子化を行いたいというニーズが最初にあり、これをクラウドで実現するには使い慣れたExcelなどが利用できる「Microsoft Office365」が望ましかった。そのバックエンドで動くクラウドという観点で考えると、やはり同じマイクロソフト社のAzureが良いだろうという結論に達したのです。Azure上には、学生や教職員の情報を集約した「中核DB」と呼ばれるデータベースが構築されており、SaaSベースの他の業務システムと連携を行っています。これにより、いろいろな事業者のクラウドサービスを組み合わせて利用しつつ、学籍情報をはじめとする重要データの一元管理を実現しています。

東京工科大学 片柳研究所クラウドサービスセンター
講師 安藤 公彦氏

安藤氏:もう一つは、本学のクラウドサービスセンターで運用している学内向けクラウドです。このクラウドは情報教育への利用を主な目的としており、環境構築や運用管理も学生主体で行われています。学生が社会に出た時に扱うようなシステムを、実際に自分の手で組み上げて運用できるので、IT企業に就職した学生からも、『サービスの規模こそ違うが、やることは基本的に同じだった』と、ここでの経験を高く評価する声が上がっています。現在はMoodleや全学部・全教科を対象とした出席管理システム、学生向け情報提供ポータル、一部対外向けWebサイトなどのサービスを、こちらから提供しています。学内の教育関連ニーズに素早く対応できるという意味でも、こうした環境を業務用クラウドとは別に持つメリットは大きいと言えます。

フルクラウド化を進めていく過程でのエピソードや苦労話などはありますか。

田胡氏:こうした取り組みを進める際には、まず学内に委員会等を立ち上げて検討するのが一般的だと思います。しかし今回は、機器の老朽化なども激しくあまり時間が無かったため、そうした通常のプロセスを踏まずにトップダウンで一気に進めました。ある意味、オンプレミスからクラウドへの移行は、大きなジャンプに挑むようなものです。議論にばかり時間を費やしていると先に進みませんから、こうした形で進めた方が良いケースも多いように思います。

安藤氏:私は元々ユーザー側の立場だったのですが、初期にはメールアドレスが何度も変わるなど、かなり混乱もありましたね(苦笑)。先生方にしても、ITが専門の方ばかりではありませんので、新しい仕組みにすぐ馴染めないという方も多い。とはいえ、使ってもらわないことにはどうにもならないので、とにかく根気よく丁寧に説明することを心掛けました。最初は簡単なところからでも構わないので、取りあえず使ってもらえればその内にだんだん活用も進んできます。

システム的な面ではどうでしょう。

田胡氏:業務システムをクラウド化するという点では、特に大きな問題は感じませんでした。突然リソースが大きく変動するようなこともないので、予算確保や支払いについてもそれほど課題にはなっていません。ただ、ネットワークには少々手こずりましたね。本学では、無線LANを含む学内ネットワークを丸ごと外部ベンダーにアウトソーシングしていますが、90分おきに数千人の学生が一斉に教室を移動するため、その都度ユーザー認証やIPアドレスの割り当てなどの処理が発生します。ベンダー側でもこうした経験は初めてだったので、運用が落ち着くまでにはかなりの労力を費やしました。また、中核DBを介したサービス間連携についても、ベンダー同士で話し合ってもらうのはなかなか難しい面もあります。ある程度は我々が仲立ちとなってコントロールする必要がありますね。

今後はどのように学内クラウドを発展させていかれますか。

安藤氏:業務系クラウドについては、昔のような定期更新の必要も無くなりましたので、今後も継続的な改善に取り組んでいきます。その一方、学内クラウドについては、クラウドそのものを学ぶという側面がありますので、最新技術をどんどん追求していきたい。現在はインフラ用サーバの自作まで行っていますが、その必要がない用途については外部サービスの利用も検討したいと考えています。

田胡氏:当初の懸案であったPaaSを利用したEUCの推進や帳票の電子化など、まだまだやり残している部分も多い。現場部門との調整も図りながら、より最適なクラウド環境を目指していきたいですね。学認クラウドが提供する各種のサービスについても、積極的な利用を検討していきたいと思います。

ありがとうございました。