活用事例

徳島大学
SINETStreamとモバイルSINETを活用したトレーラー型動物施設の開発・運用

国立大学法人 徳島大学 バイオイノベーション研究所では、場所を問わずに動物に関わる試験研究が行えるトレーラー型の動物飼養保管・実験室を開発。その運用に、SINETStreamとモバイルSINETを役立てています。トレーラー型動物施設を開発した背景と狙い、並びにこれまでの成果について、同研究所 副所長 森松 文毅氏、同 研究員 竹島 雅之氏、徳島大学 技術専門職員 八木 香奈枝氏にお話を伺いました。(インタビュー実施:2023年9月27日)

まず、徳島大学 バイオイノベーション研究所の概要について教えて頂けますか。

国立大学法人 徳島大学
バイオイノベーション研究所
副所長 森松 文穀氏
(2023年撮影時)

森松氏:当研究所は、地域における生物や第一次産業に関連するオープンイノベーションを推進する目的で設立された組織です。具体的には生物系のフィールド、たとえば農場や水圏教育センター、林業に関わる施設など、第一次産業に関わる様々な組織を一つに統合して発足しました。現在は産業生物系部門と地域生物系部門の二部門体制で、第一次産業の高度利用に向けた様々な研究を行っています。

石井キャンパスにおいては、食肉生産分野の研究を行われているそうですね。

森松氏:2020年に完成した畜産先端システム開発施設を中心に、アニマルウェルフェアに配慮した畜産システムの研究を行っています。ここでは子豚の段階から飼育を行い、血液や糞便などの試験を実施。ストレスや腸内細菌叢の変化を調べることで、動物にとって健全な畜産の実現を目指しています。ちなみに、こちらで飼育する豚には抗生物質を用いていません。飼育後には食肉やハムへの加工も行いますが、その一部は石井キャンパスのある徳島県・石井町のふるさと納税の返礼品にも採用頂いています。

医学部との連携も行われているとのことですが。

森松氏:豚という動物は雑食であり、腸の長さも人間に近い。様々な面で人間に似ていることから、医学部領域では豚を用いた試験研究が注目を集めています。一方、当研究所では豚の繁殖を行っていますので、これを対象として医学部や研究機関と連携する取り組みを行っています。

食性や臓器などの類似性を踏まえ、動物を用いた医学研究が注目を集めている

移動式の動物施設を開発されたのも、そうした取り組みの一環ということでしょうか。

森松氏:その通りです。医学部の研究者は臨床業務の合間に研究を行いますので、患者さんの診察をしながらということになります。その関係で、農場まで来て試験研究することがなかなか時間的に難しい。それならば、医師のほうにこちらから試験研究設備を届けようということで、このトレーラー型動物施設を開発しました。

トレーラー型動物施設の外観

なるほど。そうした背景があったのですね。トレーラー型動物施設の概要についても教えて頂けますか。

国立大学法人 徳島大学
バイオイノベーション研究所
研究員 竹島 雅之氏

竹島氏:長さ(内寸)5m、幅(内寸)2.3m、高さ(内寸)2.3mのトレーラーユニットに、中型動物の試験に必要な設備を備えた施設となっています。内部は着替えなどを行う準備室、飼育室、手術室に分かれていますが、取り外し可能なパーティションでレイアウト変更も可能です。手術室には、無影灯、生体モニタ、人工呼吸器、麻酔器、手術台、流し台など、外科的処置を行うための各種機器を装備。臓器を保存するための設備や、HEPAフィルタ付きの陰圧/与圧装置も備わっています。また、飼育室には動物に合わせた飼育ケージを設置しているほか、手術室と独立した空調装置が付いており、動物に合わせた温度管理もできます。

トレーラー型動物施設の内部

電源や水の供給はどうするのでしょうか。

竹島氏:通常はトレーラーを設置する建物から供給しますが、牽引車側に発電機や給水/排水設備を搭載することもできますので、インフラが整っていない場所でも運用が可能です。

牽引車側に搭載された発電機や給水/排水設備

トレーラー型であることのメリットはどのような点にありますか。

竹島氏:まず一つは、森松先生の言われた通り、わざわざ農場まで移動しなくて済むという点です。加えて、試験準備の必要がない点も大きいですね。人と動物で同じ試験装置を使うことはできませんので、これまでは使用する動物に合わせた試験設備を用意する必要がありました。しかし、このトレーラー内にはすべての設備が完備されていますので、すぐに試験に取り掛かることができます。さらに、研究者は一年中試験を行うわけではありませんから、利用が終わったら返却し、遊休期間中の設備管理をしなくて済む点もメリットと言えます。

モバイルSINET/SINETStreamを採用された経緯について教えて下さい。

竹島氏:試験においては、施術の様子の記録や動物の状態監視を行います。通常の施設では有線設備で構いませんが、トレーラーの場合には無線通信を使わなくてはなりません。しかも、やりとりされる情報は機密性が高いため、高度なセキュリティも求められます。そこで、モバイルSINETを介して監視カメラの映像をモニタリングすることにしました。
 ただし、その後研究を進めていく中で、温度/湿度などの環境データも必要になってきました。また映像をモニタリングするだけでなく、録画を行うことも必要になりました。当初はこれらを別々のアプリで管理していたのですが、運用が非常に煩雑になってきました。そこで、データ収集・解析等を容易にできるようSINETStreamを使ってみることにしたのです。

現在はどのようなシステム構成になっているのでしょうか。

竹島氏:まず、トレーラー内には、温湿度センサーと監視カメラ、ケージ照明タイマーを設置。Raspberry Piを用いて、これらのデータ取得や信号処理を行っています。映像データは解像度が320×240ピクセルのデータを1秒あたり1枚送信。温湿度データは10秒周期でのサンプリングを行っています。通信量としては、前者が約1.2GB/日、後者が約65MB/日となっています。

トレーラー内に設置されるセンサー等

センサーで取得されるデータ(例)

国立大学法人 徳島大学
技術専門職員 八木 香奈枝氏

八木氏:通信の流れとしては、モバイルSINETを介してトレーラーから常三島キャンパスのサーバーにデータを送信する形になります。石井キャンパスからは、VPNを経由してサーバー上のデータを見に行きますが、モバイルSINETのSIMを挿したスマートフォンがあれば、そちらからも常三島キャンパスのサーバーに直接アクセスできます。

モバイルSINETを用いたネットワーク構成

SINETStreamの使い勝手についてはいかがでしょうか。

竹島氏:我々は普段あまりプログラミングとの接点がなく、何から始めればよいのか分からない状況でした。その点、SINETStreamは、チュートリアルが分かりやすくまとめられていますので、導入はしやすかったですね。現在の監視対象は、温湿度、カメラ、照明の3つですが、将来的には照明の制御や自動給水/給餌、ケージ扉の開閉状態監視や体温/体重の測定など、より多くのデータをセンシング/制御できればと考えています。

センシング/制御の対象

八木氏:インストール手順なども詳しく書かれており、監視ソフトへのセンサーデータ表示なども簡単に行えました。他の方々にも知って頂きたい機能がたくさんありますので、本学以外の大学や研究機関でも便利に使えるのではないかと思います。

最後に、これまでの成果と今後の展望について伺えますか。

森松氏:医師は人の身体についてはプロですが、動物についての知見があるとは限りません。そこで従来は、我々の方で動物の様子を見に行ったりしていました。しかし、SINETStreamを導入したことで、動物の状態をどこでも常時把握できるようになりました。様子を見にいかなくても事前に動物のケアができるということで研究がすごく進捗しております。試験研究を行う医師だけでなく、我々としても大きなメリットが得られました。現在は本学と岡崎の生理学研究所で試験研究を行っていますが、他の大学や研究機関からも使ってみたいとのご要望を頂いています。こうした声に応えて、全国にこの移動式動物施設を届けていきたいですね。

ありがとうございました。

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