活用事例

東北大学

国立大学法人 東北大学では、クラウド業務基盤の全学導入などを通じ、コロナ禍前からデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)の取り組みを開始し、現在ではDXをさらに加速すべく様々な施策を展開しています。その一環として、学内事務関連システムのクラウド化を実施しました。これまでの取り組みと成果について、情報部デジタル変革推進課 特任准教授 小野寺 司氏、同 特命課長 藤本 一之氏、同 業務推進係長 川上 翔氏にお話を伺いました。(インタビュー実施:2022年11月21日)

昨今では教育機関でもDXに向けた取り組みが重要課題となっています。そうした中、東北大学では、2022年4月にデジタル変革推進課を設置されました。まずは、その経緯について教えて頂けますか。

東北大学 本部事務機構 情報部
デジタル変革推進課 特任准教授 小野寺 司氏

小野寺氏:本学では、コロナ危機を受け、「東北大学ビジョン2030」をアップデートし、「コネクテッドユニバーシティ戦略」を策定しました。この戦略は、教育・研究・社会共創・大学経営の全方位でDXを加速的に推進することを目指すものです。

藤本氏:2020年6月には、新型コロナウイルス感染症という危機においてもそれを克服し、ニューノーマル時代に即した働き方を確立すべく、本学は「東北大学オンライン事務化宣言」を発出しました。ここでは「窓口フリー」「印鑑フリー」「働き場所フリー」を掲げ、対面で行っていたサービスや手続きのデジタル化を図りました。この時に設置されたオンライン業務推進課の名称を改め、本学が掲げる全方位のDXのうち、「大学経営のDX」を主に担当する組織として2022年4月に発足したのがデジタル変革推進課です。

デジタル変革推進課が「大学経営のDX」の中心となることで、様々な改革をより効率的に進められるというわけですね。

東北大学 本部事務機構 情報部
デジタル変革推進課 特命課長 藤本 一之氏

藤本氏:「東北大学オンライン事務化宣言」を実現するため、2020年7月、業務のDX推進プロジェクト・チームが立ち上がりました。学内公募により集まった約50名の職員が当課に兼務しています。当課では、公募で集まった高い改善・改革意識を持つ若手職員とともに、チームに分かれてそれぞれの業務改革テーマに挑戦し、短期間で数多くの成果を上げています。

変革に苦労する企業や教育機関も多い中、東北大学が多くの成果を収められている秘訣はどこにあるのでしょう。

藤本氏:組織・体制面でいえば、総長、プロボスト、また事務機構長をはじめとする大学トップの理解があることが大きいですね。加えて言えば、ある程度先を見越して準備するということでしょうか。たとえば本学では、2016年の段階で各種業務システムと事務系クライアント1600台の仮想化を実施。これも、当時働き方改革関連法案が話題となっており、将来的なリモートワークの拡がりが予想されたからです。その結果、2020年の新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言発令時にも、その翌日から在宅勤務への切り替えを実施できました。

翌日とは驚きですね。さらに今回、学外のクラウドサービスを用いた事務業務システム基盤(事務職員が利用する各種基幹系業務システムの基盤)を導入されました。その狙いについても伺えますか。

東北大学 本部事務機構 情報部
デジタル変革推進課 業務推進係 係長 川上 翔氏

川上氏:この基盤は以前は「事務用電子計算機システム」と呼ばれており、オンプレミスで構築していました。その更新を検討する中で浮かび上がってきたのが、全面クラウド化です。在宅勤務への即時切り替えを可能にするなど、システムの優れたコンセプトはそのまま継承したい。とはいえ、改善したい部分もあり、その一つがハードウェアにまつわる課題でした。様々な運用管理作業もありますし、保守切れに伴う移行も定期的に発生します。BCPのことを考えても、学内にこだわらず外へ出すべきと判断しました。

  

藤本氏:大学としても、カーボンニュートラルをはじめとする社会への貢献が重要なテーマです。大量の電力を消費するサーバー群が学内に存在するのは、この点でも問題です。「所有から利用へ」の転換を図る上でも、クラウド化が必然と考えました。

その他にポイントとなる点はありますか。

  

藤本氏:これも先を見据えるという話と関連しますが、マルチデバイス化の流れに対応すべくChromebookを新たに導入しました。従来の環境ではWindows端末を前提としていましたが、「GIGAスクール構想」が実施されたことで、現在の小学生はみなChromebookに親しんでいます。10年後、彼らが大学生になった時に、それが使えないというのは望ましくない。また、ローカルにデータが保存できないChromebookは、在宅勤務時の持ち帰り端末としても有用です。

オンプレミス環境からの移行はスムーズに進んだのでしょうか。

小野寺氏:元々の環境も仮想化されていますから、サーバーの移行自体にはさほど大きな問題はありませんでした。特にクラウドの場合は、ハード/ソフトの相性問題などで苦労する心配もありませんし、移行タイミングもベンダーに任せられます。また、あらかじめ移行計画を策定するなど、事前準備をしっかりやっておいたことも大きかったと思います。

川上氏:ただし、ネットワークまわりの確認についてはかなり神経を使いました。システムが学外へ出ることで、通信経路も今までとは変わってきます。NIIのSINETクラウド接続サービスを使うことにより、L2 VPNでフラットにつながりはしますが、業務システムによってはIPアドレスを認識できなくなるなど思わぬトラブルが起きる場合があります。また、自宅からのリモートアクセスなど、これまでにない利用シーンも考慮する必要があります。そこで、考えられる接続パターンをすべて洗い出してチェックすると同時に、各部局の管理者とも綿密な打ち合わせを行いました。このあたりはそれぞれの大学でネットワーク事情が異なると思いますので、クラウド移行を検討される際には十分注意された方が良いと思います。

なるほど。クラウド化成功のカギは、ネットワークにありというわけですね。

川上氏:ちなみに、今回苦労したことの一つに、BCP発動時の運用があります。万一全学ネットワーク「TAINS」が使えなくなった場合には、学外ネットワーク経由でサービスを継続できるようにしたい。たとえばWebサーバーなどは、こうした際にもきちんと動いていないと困りますからね。ところが一部のシステムにおいて、学内DNSサーバーが止まってしまうと、名前解決が行えずアクセスできなくなる問題が発覚。今回はベンダーと協議して対応を図りましたが、事前にどのサーバーをどういう経路で公開したいのか議論できるなら、是非しておいた方が良いでしょう。

その他に、安否確認システムの独自ドメイン化も実施されたそうですが、この点についても伺えますか。

小野寺氏:安否確認システムは外部サービスを使っていますが、以前は安否確認メールの発信元や安否報告入力サイトのドメイン名が事業者のものでした。このため、セキュリティツールなどでなりすましメールや不正サイト誘導の警告対象になってしまうという問題があったのです。そこで、事業者のIPアドレスを信頼済みとすると同時に、安否報告入力サイトのドメイン名も本学のものとすることで解決しました。

学内情報基盤のクラウド化を実施してみて、改めてそのメリットをどう評価されますか。

川上氏:「このハードを何年使うか」といったことを考えなくて良いですし、サーバーを増設したい場合も契約変更で済みます。できることの選択肢が拡がるということが大きいですね。ただし、突き詰めて考えれば、本当に必要なのはサーバーではなく、そこで提供される業務機能です。そこで今後は、SaaSの活用も進めていきたいと考えています。

最後に今後の展望も伺えますか。

藤本氏:本学の変革では、スピードやアジリティが強く求められています。サーバー構築に2ヶ月掛かるといったことでは許されません。トライアル&エラーのサイクルを短期間で回せるクラウドは、こうしたニーズにも非常にマッチしています。今後も様々なチャレンジに挑んでいきますので、NIIならびに学認クラウドのサービスにも大きな期待を寄せています。

ありがとうございました。

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